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![]() 104回 映画のことを語ろう(9月号) |
| 西島雄造 |
| [ 悪 者 は 地 獄 へ 行 け ] |
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フランスの女優セシル・オーブリーの訃報が伝わった。7月19日、81歳、肺がんと闘っていたという。『トリビューン』紙は<中高年の星>と書いて悼んだ。日本の新聞も報じはしたが、編集スタッフにとっても過去の女優だったと見え、通り一遍の内容だった。われら中高年の映画ファンには、鮮烈な場面を記憶に刻みつけた主演作『情婦マノン』(48)。『恐怖の報酬』(52)や『悪魔のような女』(55)のアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が、40歳のときヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を射止めた作品だ。 原作の小説、フランス・ロマン主義文学の『マノン・レスコー』も、いまの時代には忘れられがちだ。原作者アベ・プレヴォーは、Prevost=大修道院長の名のように、聖職者でありながら天職を投げ打ち、一時は軍隊にも入り、恋に溺れと、まさに波乱の人生を送ったそうだ。『ある貴人の回想録』の第7巻に書かれた小説は、マスネのオペラ『マノン』(1884年初演)、またプッチーニの『マノン・レスコー』(1893年初演)にもなっている。 映画では背景を第二次世界大戦下に求め、レジスタンス運動に加わっていた主人公(ミシエル・オークレール)が、マノンとの恋に落ちたばかりに運動を捨て、果てはマノンの兄(セルジュ・レジアニ)を殺し、貨物船でパレスチナに逃避する。マノンはいわゆるファム・ファタール=運命の女として描かれる。砂漠で殺されたマノンを、男が逆さに背負い歩いて行く幕切れには、ペシミズムが漂った。 天使でもない娼婦でもないマノンに扮したのがセシル・オーブリー。撮影時は19歳、まだ成熟しきれていないのにコケティッシュで、あどけない表情に浮かべる危うい魅力があった。このあと20世紀FOXと契約し、『黒ばら』(ヘンリー・ハサウェー監督)ではタイロン・パワーと共演したが、あっさりスターの座を捨て、モロッコの王子と結ばれて息子をもうけた。のちにはフランスに戻り、児童書やテレビ番組の脚本、演出なども手がけた。日本のスクリーンではつかの間の輝きだったが、忘れられない女優である。 |
(写真:「火と戯れる女」)今月の表題は、もう一人の忘れがたい女優マリナ・ヴラディが出演した1955年の映画の題名だ。ジュールス・ダッシン監督のフィルムノワールの傑作『男の争い』(55)や『愛と哀しみのボレロ』(クロード・ルルーシュ監督81)などにも出ている、82歳でいまも現役の俳優でもあるロベール・オッセンが、妻のマリナをヒロインに初監督した。ここでもセルジュ・レジアニが共演している。肌にはりついたマリナの水着姿が官能的だった。 マリナ・ヴラディはアンドレ・カイヤット監督の『洪水の前』(54)をはじめ『タンゴ ガルデルの亡命』(フェルナンド・E・ソラナス監督85)でも懐かしい顔を見せた。ロシアのシンガーソングライター、ウラジミール・ヴィソツキーと家庭を営み、夫の死後は執筆活動に手を染める73歳である。ついでながらセルジュ・レジアニはイヴ・モンタンが冒頭で『枯葉』を歌ったマルセル・カルネ監督の『夜の門』(46)や、モンタン、エディト・ピアフとの『光なき星』(マリエル・ブリステーヌ監督45)、青春の墓標のような『冒険者たち』(ロベール・アンリコ監督67)などにも出演し、2004年に82歳で他界している。 |
(写真:「終着駅 トルストイ最後の旅」)さて今月一番のお薦めは『悪人』。吉田修一の小説を、李相日監督と原作者が、膝つきあわせて脚本化した。≪悪≫を描くと言うのは生易しいことではない。人間の内面や生活背景をしっかり書き込まなければ、動機が浮かび上がらないからだ。その大切な第一歩で成功している。ひとつのカット、ひとつのセリフで、置かれている状況や心情を語り、人物を造形する。気迫のこもった脚本であることが読みとれる。 演出にも言える。生活感がにじむような点描。編集(今井剛)も巧みだ。<なぜ、愛したのか><なぜ、殺したのか>。まさに宣伝文句がそのまま主題だ。携帯の出会い系サイトで始まる危険なラブゲーム。日常的に起こり、新聞記事になっていそうな発端。 人を人とも思わぬ連中に鉄槌を下す。殺意はなくとも人を殺せるものか。終わりは近松浄瑠璃の道行をも思わせる逃避行。前述の『情婦マノン』とも重なり、恋愛至上主義への昇華さえ感じさせる。作家性がほとばしる第1級の映画である。妻夫木聡の成長に目を見張る。深津絵里、樹木希林、柄本明…いずれも性根の座った演技だ。久石譲は映画音楽の何かを熟知している。 |
(写真:「メッセージ そして、愛が残る」)第1作『ドラゴン・タトゥーの女』に続く『ミレニアム』の2『火と戯れる女』と3『眠れる女と狂卓の騎士』が連続上映される。第2話は『ミレニアム誌』の特集号のため、少女売春組織を追っていた男の殺害事件で始まる。現場には調査員リスベットの指紋が残っていた。やがてリスベットとジャーナリストのミカエルに迫る危機。リスベットの出自も明らかにされる。旧ソ連の公安筋で働いて収賄に手を染め、スウェーデンに亡命して、機密を小出しにしながら生き延びる男を取り巻く秘密組織。組織を死守するため重ねる殺人。 三部作は序破急の形を踏み、第3話の後半は法廷に移り、次々に隠された事実が暴かれる。映画的というよりも、本格推理小説のページをめくるような愉悦。ドメスティック・バイオレンス、幼児ポルノと現代社会の諸悪を絡ませながら、ギリシャ悲劇のような近親憎悪、そして少女の悲しい生い立ちの物語にもしている。福祉国家にも深い闇はある。ダニエル・アルフレッドソン監督。リスベット役は、もちろんノオミ・ラパス。第2話が130分、第3話は148分。長尺だが飽きさせない。 マイケル・ホフマン監督の新作『終着駅 トルストイ最後の旅』は、副題のようにロシアが生んだ大文豪が、82歳の再晩年に家出して病に倒れるという史実をもとに、半世紀近く連れ添った妻であるソフィヤとの心の亀裂を描く。文豪を悩ます火宅、取り巻く<トルストイ主義者>、著作権と印税に絡む偽善、虚飾、猜疑…。至高の作家と妻が紡ぐ男と女の物語は興味が尽きない。いまだ残暑がやまないが、秋の始まりに相応しいメロドラマ仕立ての文芸作品。トルストイを演じるのはクリストファー・プラマー、妻のソフィヤにヘレン・ミレン。トルストイ主義者を演じるポール・ジアマッティが光る。ほかにジェームズ・マカヴォィと、実生活ではその妻のアンヌ=マリ―・ダフ。 |
(写真:「ハナミズキ」)フランスの作家ギョーム・ミュッソの小説を映画化した『メッセージ そして、愛が残る 』(ジル・ブルドス監督)は、不思議な感覚の映画だ。ニューヨークの法律事務所で働く弁護士(ロマン・デュリス)は、息子を病で亡くしてから、悲しみに耐えるために仕事に没頭する。その前に現れた男(ジョン・マルコヴィッチ)はどこか胡散臭さを感じるが、妙に気にもかかる。男はある日、一人の青年の死を予知する。 死への旅に向かうまでは、死と向き合う時間でもある。その時、いまを生きる素晴らしさに気付くことは出来ないだろうか。オカルト風の展開ながら、そこにはホスピスの思想があり、死生観につながる人生哲学がある。『花様年華』(ウォン・カーウァイ監督2000)や『空気人形』(是枝裕和監督09)の撮影を手がけたリー・ピンピンのカメラが生きている。 はみ出し刑事をブルース・ウイリスとトレイシー・モーガンが組む『コップ・アウト』(ケビン・スミス監督)。これぞA級アホムービー。とにかく笑っちゃう。このテンポ、この話術。スタンダップ・コメディで磨いたトレイシーの話芸を見て、テレビで出しゃばるわが国のお笑い芸人たち、恥を知るか発奮するか。ショーン・ウイリアム・スコットとギレルモ・ディアズ(ギエルモではないか?)が、主役2人に輪をかけてスゴ技。 |
(写真:「きな子〜見習い警察犬の物語〜」)地に足のついた青春を描いた『ハナミズキ』(土井裕泰監督)は、好感のもてる作品だ。一青窈のヒット曲をモチーフに、吉田紀子が脚本を書いた。はじめにロケ地ありの印象は否めないし、後半は予定調和のまとめ方。イラクでひとり車を乗り回して取材するなど、現実的ではないが、北海道の暮らしの描写に精彩がある。新垣結衣と生田斗真が演じる出会いと別れ、そして…。薬師丸ひろ子の母親役に違和感がない。 夏の終わりには青春ものが並ぶ。『君が踊る、夏』(香月秀之監督)は、南国土佐の<よさこい祭り>が主役。難病の少女を絡ませて、愛と友情の物語。こっちはスター街道を走っている溝端淳平に、五十嵐隼土と木南晴夏、藤原竜也が友情出演。主題歌を東方神起。 『BECK』(堤幸彦監督)は、横須賀を舞台にした青春群像。悩んだり怒ったり、背伸びしたり格好つけたりしながら、若者は上昇してゆく。彼らを結ぶのは音楽の力、ロックのエネルギー。原作はハロルド作石の人気コミック。バターくさいわりに意外にウエットな若者たちだが、最後は大いに盛り上がる。横須賀の猿島や京浜急行の駅前の点描が珍しい。水嶋ヒロ、佐藤健、桐谷健太、忽那汐里、中村蒼、向井理ら青春スターが勢ぞろい。144分はいささか冗長。 『ベンダ・ビリリ!〜もう一つのキンシャサの奇跡』は、副題通りアフリカの中央に位置するコンゴ民主共和国を舞台にした異色の音楽ドキュメンタリー。かつてはザイール共和国と呼ばれたこの国は、内戦、動乱、クーデターを重ね、落ち着くいとまもなく、世界の最貧国と言われてきた。首都のキンシャサは、エジプトのカイロに匹敵する人口を抱えている。そこから飛び出したスタッフ・ベンダ・ビリリは、動物園に寝起きする路上生活者のチーム。そればかりか、小児麻痺から下半身が不自由にもかかわらず、手作りの車いすと楽器で奏でる音楽は、ワールドミュージック界を席巻した。9月から10月にかけて日本でツアーを組む予定だ。キューバ音楽と土地のリンガラ・ポップスが入り混じったエネルギーと生活力のすさまじさを感じるには、映画を見るしかない。 ほかに動物ものが、微笑ましい『きな子〜見習い警察犬の物語〜』(小林義則監督)と、犬と猫がにらみ合うアホムービー『キャッツ&ドッグス 地上最大の肉球大戦争』(ブラッド・ペイトン監督)の2本。 |
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