(7月号)




[見上げてごらん夜の星を]
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(写真:カメラや携帯でナイスショッ)


 梅雨さなか。星空を雨雲が隔てている。なぜ人は星に心を奪われるのだろう。高校時代、地学のレポートに冬の戸外で凍えた夜を明かしたことがある。今も忘れられないオリオン座、スバル、アンドロメダ、白鳥座…のきらめき。中学の音楽で習った「冬の星座」の歌詞そのままの空だった。

 「冬の星座」の原曲はアメリカのウイリアム・シェイクスピア・ヘイズ作「Mollie Darling」。♪僕だけを愛しておくれと、いった甘いラブソングで、2番と3番にわずかにStarが歌いこまれている。訳詞は堀内敬三。米国留学から帰国後、音楽活動を始めた。スコットランド民謡の「アニー・ローリー」や、♪遠き山に日は落ちて…で始まるドヴォルザークの「新世界」第2楽章の歌詞が、愛され口ずさまれてきた。
(写真:青と白のみごとな調和)

 ピンクのフラミンゴの群生が目を奪うアフリカ・ケニアのナクル湖のロッジでは、自家発電なので午後10時には消灯された。途端にまばゆい星空が広がった。アラビア半島の上空を飛行しているときは、湾岸油田地帯の余剰ガスの燃焼装置・フレアスタック(煙突)から燃え上がる炎を眼下にしながら、上空の星を眺めた。インド洋のモルジブでは、四海に覆いかぶさるような星空だった。南半球を訪れると、現地の人に南十字星はどの方向に見えるかと尋ねるのが常だが、あまり興味を示してくれない。

 7日は七夕。織女と牽牛が年に一度の逢う瀬を許される日である。笹竹の緑が雨に映えて鮮やかだが、この日の空を占うことなどできるはずもない。
 
 荒海や 佐渡に横たふ 天河(天の川)
 
 奥の細道の旅に出た松尾芭蕉は、元禄2年7月4日(陽暦8月18日)、新潟の出雲崎にたどり着く。新潟県のほぼ中央に位置し、かつては北前船の寄港地でもあり、幕府の直轄地・天領として栄えた。ここはまた良寛の生地で、見はるかす佐渡はかつて金山の島、良寛の母親も佐渡の人だった。

 荒海やの一句が詠まれた地としてよりも、地元は<どらまちっく日本海 良寛さんと夕日の町>が自慢だ。出雲崎から見る日本海に沈む夕日と、紙風船の生産量は全国の90%をPR。良寛にちなみ俳句ポストを設けて、年に一度表彰している。

 昨年12月に出された人気歌手ジェロが歌う「海雪」の舞台となったことを縁に、さる4月にはジェロを<出雲崎観光大使>に任命した。いささか脱線してしまったが、芭蕉が七夕の7日に宿泊した直江津では夜来の雨降りやまず、というわけで、荒海やの一句を詠んだのは快晴だった4日の出雲崎との説が有力だ。

 雨にまつわる句なら、6月16日(陽暦8月1日)に詠んだ

 象潟や 雨に西施が ねぶの花 

 もまた名句である。いまは秋田県にかほ市象潟町。鳥海山を背に大小の島が浮かぶさまは松島をも思わせる景勝の地である。7月19日にはトライアスロン芭蕉レース象潟大会が開催される。ここにも芭蕉の恩恵あり。
奥の細道を歩んだ時期を旧暦と照合すると季節感がずれる。ここは素直に新暦の七夕にからめて星の話を続けよう。
(写真:梅雨の晴れ間のにぎわい)

 ギリシャ神話では、ヘラクレスが赤ん坊の時ゼウスの妻ヘラの乳房を強く吸いすぎたため、乳が空に飛び散って銀河となったという。そこから英語では銀河=milky wayという。インターネットでmilky wayの画像を検索すると、300万を超える項目があることに驚いた。写真を閲覧し拡大して見ると、1枚1枚が形状といい色調といい目を奪う美しさに、光年の世界に落ち込んだようで、時の経つのを忘れる。

 ギリシャ神話の世界ではヘラクレスだが、星としての呼び名はヘルクレス星座。5番目の明るさだそうだ。天の川を見るには、今の季節なら星が密集している銀河系の中心にあって、南の低い空に位置する<いて座>の方向に目を凝らせば、よく見えるらしい。梅雨ひと休みのとき、夜空を眺めてみてはどうだろう。

 6月24日の朝日新聞夕刊は、5月に打ち上げられた天文衛星ハーシェルの大型赤外線望遠鏡がとらえた銀河M51の画像を<渦巻く銀河くっきり>と紹介していた。ことしはガリレオ生誕400年の世界天文年ということもあって、興味深い催事に出くわす。

 日本天文学会は世界天文年全国同時七夕講演会を催す。東京では東大本郷キャンパスや国立天文台、東京電気通信大、六本木ヒルズなどが会場になる。日本天文学会のホームページに詳しい。<星を見る・宇宙を知る・天文を楽しむ>と、天文関連のソフトウエアや雑誌・書籍の制作などに携わっている<AstroArts>のホームページも、楽しく有益な情報が満載だ。

 鹿児島県鹿屋市輝北町は、日本一星の美しい町を標榜している。<星のメッセージが聞こえる><星をもっとも身近に感じることができる場所です>と自慢の天球館天体観測ドームには、口径65センチの反射望遠鏡が備え付けられ、折に触れ星にまつわる催事がある。のぞかせてもらったことがあるが、天体の神秘が目の前に広がる。周辺には公園やキャンプ地も設備され、近くの温泉に浸りながら眺める錦江湾、桜島は絶景というにふさわしい。蛇足だが、天下に名をはせた焼酎<森伊蔵>はご近所垂水市に蔵元がある。
(写真:道すがらスモークツリーの花)

 栃木県塩谷町の<星ふる学校「くまの木」>はユニークだ。1999年に廃校になった旧熊ノ木小学校を、特定非営利活動法人・塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合が廃校の宿・体験学習施設として運営している。直径3.5メートルの天体ドームには、口径35センチの望遠鏡も備えられている。

 標高1200mの蔵王・坊平高原は、蛍と星空で知られている。7月15日頃から2週間、蔵王の湧水が育てた蛍が舞い飛び、見上げれば満天の星。「5月から9月にかけて午後8時頃から真上に天の川、8月11日から20日はペルセウス流星群」と、文字をたどるだけでも心誘われる。12日と13日には星のソムリエの案内で星の解説もある。星のソムリエとは、なんと素敵な呼び名だろう。

 そればかりではない。7月18日の午後1時からは、蔵王坊平 JAZZ MEETING 2009 の野外フェスティバルも開催される。せちがらいニュースが多い昨今だが、星を友とすれば、人は優しくなれそうだ。
 
 星は詩心、歌心をも紡ぎだす。ジャズと言えば永遠不滅の名曲「スターダスト」がある。盲目の歌手レイ・チャールズが歌って米ジョージア州の州歌になった「わが心のジョージア」と同じホーギー・カーマイケルの作曲。もっとも「Stardust」(1929)の題名は、曲が出来上がった後で付けられた。
(写真:東村山市の正福寺地蔵堂)

 「星に願いを」はディズニー映画「ピノキオ」の主題歌で、1940年のアカデミー歌曲賞に輝いている。やはり1944年の同賞「星にスイング」は「わが道を往く」の主題歌。これもジャズの名曲になっている「星影のステラ」は映画「呪いの家」(1944)の挿入曲。「アラバマに星落ちて」(1934)も美しいバラード曲だ。
 
 日本の歌なら「星影の小径」は1950年に小畑実が歌い、ちあきなおみの歌でリバイバルした。ロカビリー全盛時代に平尾昌晃が歌ったのが「星は何でも知っている」。千昌夫が歌った「星影のワルツ」は、発売して2年後の1968年に大ヒット。海外でも愛されている。

 「星のフラメンコ」や「星娘」「願い星叶い星」で知られる西郷輝彦のホームページ「西郷百歌店」には、星を題材にした歌が11曲と「銀河のはてに」が並んでいた。こんな歌手も珍しい。戦中・戦後派には、なんといっても菊池章子が敗戦間もない頃に歌った「星の流れに」を、記憶から消せないだろう。「見上げてごらん夜の星を」は、言うまでもなく永六輔詞、いずみたく曲で、1963年に坂本九が歌った。
 
 スターはもうひとつの意味を持つ。スーパースター、マイケル・ジャクソンが、6月25日(日本時間26日)、50歳の生涯を閉じた。ポップス界から突然消えた巨星を、日本の新聞も最大級の扱いで報じた。<マイケル・ジャクソンさん急死 「スリラー」1億枚・数々の醜聞>(朝日)<マイケル・ジャクソンさん死去 「スリラー」「バッド」…7億5000万枚>(読売)と、1面と社会面を費やして書きつづった。1987年9月の後楽園で見たステージと客席の熱狂ぶりが目に浮かぶ。
(写真:木彫りの小さな地蔵の表情も)

 脱線に脱線を重ねたが、7月22日には皆既日食の天体大イベントがある。奄美列島北部からトカラ列島、屋久島、種子島へつながる皆既日食帯の中でも、悪石島では午前10時56分に最大食が見られる。むろん全国でも部分食を見ることができる。東京では食の始めが9時55分33秒、11時12分58秒に0.749の最大食、終わるのが午後0時30分20秒のスペクタクル・ショー。

 次に見られる皆既日食は2035年9月。その前の2012年5月21日にはトカラ列島から関東にかけて金環食の出番があるそうだ。関東の平均的梅雨明けは7月20日頃。日食の日の晴天を祈ろう。

 雨に咲く花は水色が鮮やかだ。東村山市の北山公園の花菖蒲を見に行った。3弁、5弁とそれぞれに競い咲く花。その名も天女の冠、十二単、葵上、紬娘と日本的で風雅に夏の風を呼んでいた。

 帰途に地蔵堂に回った。金剛山正福寺にあり、室町の初期1407年の建立。東京で唯一の国宝建造物と、立札に書かれていた。屋根の四隅が見事な曲線を描いている。8月8日、9月24日、11月3日には内部が公開される。       

                                (YOU)


写真は東村山市の北山公園周辺で=筆者撮影=

 

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